「ヴァーチャル日本語役割語の謎」 お嬢様言葉の起源

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スチームパンク世界に似合う言葉遣い、女性の〜ですわ、〜てよ、男性の〜したまえ、〜かね? 日常的に聴くことのない言葉遣いの謎を解く『ヴァ〜チャル日本語役割語の謎』をご紹介します。
ヴァーチャル日本語役割語の謎

女性スチームパンカーに似合うのは「ですわ」「〜てよ」なんていうレトロな響きがある「お嬢様言葉」なのかもしれませんね。また男性の方、女性が男装した時には「〜したまえ」「〜かね?」なんて昔の学生言葉の方がいいでしょう。私もこのブログでは時々こんな口調で文章を書いていますよね。

実際には聴いたことがない日本語


上の動画は、映画『マリア様がみてる』の予告編です。みんな典型的なお嬢様言葉です。でもあなたは実際にこんな話し方をしている人に出会ったことがありますか? 接客業についている女性は「〜でよろしゅうございますか?」「〜でございます」ぐらいの敬語は使うでしょうが、ここまでコッテコテのお嬢様言葉を使う方はめったにいないでしょう。「〜たまえ」口調の男性にしても同様。

しかし日本語を母語としている私たちは、実際に耳にしたことがないにもかかわらず、お嬢様っぽいな、昔の学生さんみたいだな──なんて見当がつきます。このブログの読者のみなさんなら、いかにもスチームパンカーっぽい話し方だなと思われるかもしれません。それはいったいなぜなんでしょう? そもそも「お嬢様言葉」とは一体何なのでしょう?

お蝶夫人の話し方


金水敏氏による『ヴァーチャル日本語役割語の謎』という本はその謎を解き明かしてくれます。例としてあげているのがテニスマンガ『エースをねらえ!』のお蝶夫人です。マンガ連載は1973年ですが、その後何度かアニメ化されたのでご存知の方も多いでしょう。主人公・岡ひろみが宗方コーチによって鍛えられ、一流テニスプレーヤーに成長する物語です。

作中の登場人物の中で主人公よりも知名度が高いのが、竜崎麗香──通称お蝶夫人です。大富豪であり庭球協会理事の父をもち、超高校級のテニスの腕前に輝くような美貌……まごうことなきスーパーお嬢様です。高校生で未婚なのになぜ夫人なのかというツッコミはすでに100万回ぐらいされていますが、プライドが高く華麗で万能の彼女にピッタリのあだ名ですよね。

お蝶夫人の口調は典型的なお嬢様言葉。「あたくしも賛成ですわ」「よろしくってよ」と話し、笑うときは常に「ホホホ」。間違っても「超ウケる〜ギャハハ」なんて爆笑しません。著者の金水氏はこのようなお嬢様言葉の歴史を、江戸時代まっでさかのぼって調査します。

明治時代の女学生言葉

式亭三馬の『浮世風呂』(1809〜1813)では江戸の下層社会においては男性と女性の言葉の差はありませんが、明治時代の二葉亭四迷の『浮雲』(1887〜1890)になると「〜ましたの」「〜なりましたわ」という表現が出てくる。その鍵を握るのは、学校に通っている女学生の話し方です。

明治時代になると女子の入学が認められるようになり、女学校も作られるようになりました。高等女学校に通ったのはある程度収入が高く家柄の良い家庭の娘(お嬢様)であり、女学校には独特のコミュニティが形成されました。その女学校で流行したのが「てよだわ言葉」。語尾に「〜てよ」「〜だわ」がつく特徴的な話し方でした。

お嬢様言葉は下品な言葉?

明治時代は日本のスチームパンク時代の夜明けですから、女性スチームパンカーの口調としてはかなりマッチしているのではないでしょうか。レトロでクラシカルといったイメージも、夏目漱石など当時の作家が書いた女学生の口調の連想でしょうか。

しかしこの「てよだわ言葉は」、明治時代の知識人、マスコミには相当叩かれていたようです。いわく、下層階級の言葉である、品格がない、耳障りで乱暴、卑しい言葉で使うべきではない──などなど。つまり現代の女子高生の「マジうぜえ」的な言葉づかいとして非難されるようなものだったのです。これは意外ですね。現代では上品で育ちがよさそうなお嬢様の言葉として認識されているのに。

絶滅したお嬢様

東京で発生した女学生言葉は全国に拡散し、1910年代には全国の女学校生も使うようになりました。戦前まで若い女性の間で大流行していたてよだわ口調は、敗戦後社会の構造が急激に変化したことと相まって廃れて行きました。華族制度は廃止され、財閥が解体され、由緒ある家柄・資産家のお嬢様は消えていきました。

もちろん現代でも貧富の差はあり、お金持ちのお嬢様は存在しています。ですが建前として日本人は皆平等となり、そのような生まれ育ちの人を区別する社会制度はなくなったのです。お嬢様は人々の観念の中にある幻想となりました。

マンガや小説で復活

けれども、てよだわ口調のお嬢様言葉は、1970年代から少女マンガや小説の中で復活します。お嬢様を象徴する小道具として使われるようになったのです。またいわゆるニューハーフやおかまの男性がことさら女性性を強調する「だわ」言葉を使うのも、小道具・仮面(ペルソナ)として使用しているのかもしれません。

私がてよだわ言葉で時々記事に書くのは、スチームパンクファッションを身にまとうように、古き良き時代の女性の象徴として小道具的に使っているからです。今はなき失われたお嬢様への郷愁もあるでしょう。「〜したまえ」という昔の学生言葉づかいも、明治・大正・昭和初期のスチームパンク時代にぴったりかと思います。

ヴァーチャルな日本語「役割語」

これらの言葉を金水氏は「役割語」と呼んでいます。本書ではお嬢様言葉の他にも、現実に話される日本語とは別の「バーチャル日本語」──例えば「わしが●●じゃ」という老博士言葉、「ワタシ●●アルヨ」という中国人言葉、「おら知らねえべ」という田舎者言葉、侍言葉、関西人言葉……などなど特徴的な言葉づかいの謎を、バラエティに富んだ文献から調査しています。

『ヴァーチャル日本語役割語の謎』日本語研究の本アルが、例を挙げながらわかりやすく書かれているアルヨ。読みながら何度もなるほどと頷くエピソードばかりじゃから、読んだ後きっと誰かに話したくなるはずじゃよ。ぜひ君も読んで見給え。とっても面白くってよ。

関連URL

books A to Z – Fm yokohama 84.7

蒸気夫人

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