『陰翳礼讃』スチームパンカーの必読書

最も我慢ならないこと、それは光の暴力。住宅、公共建築物、商業施設──どこもかしこもビカビカと照らしだされています。スチームパンクと照明そして『陰翳礼讃』についての考察です。
陰翳礼讃

ところで余談ですが、ツイッターで当ブログを「スチームパンク工作ブログ」とご紹介してくださる方が多いようです。記事を読んでくださり、またツイートしてくださるのは大変嬉しいことですが、当ブログは「工作するだけ」のブログではありません。

ここは私自身がスチームパンク世界に住むために考察したり実験するブログでして、工作はその一部でしかありません。なので工作記事だけでなく、今回のような記事もできれば読んでいただけると大変嬉しいです。

スチームパンクは世界である

陰翳礼讃
何度も書いていることですが、私はスチームパンクとは単にガジェットやファッションだけでなく、世界観や生き方であると考えています。スチームパンクマウスが、事務机に置かれていたらスチームパンクでしょうか? チグハグで全く風景から浮いてしまっていますよね。私がガジェット作りだけでなく、インテリアに力を入れているのもそういう理由です。

スチームパンクは私の願望の着地点

陰翳礼讃
また私は単なる流行としてスチームパンクを追いかけたいのではありません。長年持ち続けている「シャーロック・ホームズの世界の住人になる」という夢と、最先端の電子機器・家電、ネットの恩恵に浴したいという、対立する2つの願望の上手い着地点が「スチームパンク」でした。今後何十年もこの生活を続けるための深い知識が必要であると常々思っています。

スチームパンカー必携の美意識

陰翳礼讃
さて、私の目指す世界に共感していただける方に是非ご推薦したいのが、谷崎潤一郎『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』です。この極上の随筆には、スチームパンカー必携の美意識がぎっしりと詰まっています。

「文豪の随筆」という先入観にたじろがれる方も多いかもしれません。でもご安心あれ。たった60ページです。最初の1ページを読んだだけで引きこまれ、あっという間に読みきってしまっているに違いありませんよ。

『陰翳礼讃』とは?

陰翳礼讃
『陰翳礼讃』は昭和8年(1933)に発表されました。今からもう80年も前に書かれたものです。電灯の光で明るく照らされた建築を嘆き、まだ電気の光のなかった時代を懐かしむ──陰影こそ日本古来の美であると谷崎潤一郎は主張します。そして照明だけでなく、能や歌舞伎、食べ物、美術、化粧、高齢化社会など様々な分野における陰影の大切さを訴えています。

スチームパンクの重要な要素・照明

陰翳礼讃
スチームパンクにおいて意外に軽視されているもの、しかしながら大変重要な要素となっているのが「照明」です。クラシカル&アンティークテイスト溢れるスチームパンクガジェットが、事務所の天井についているような白っぽい蛍光灯の下に置かれていたらどうでしょう? 急にその魅力が色あせてしまうのではありませんか?

似合うのはほの暗い明かり

陰翳礼讃
スチームパンクに似合うのは仄暗い闇、そして闇にぼんやりと灯る明かりです。なぜならブリティッシュスチームパンクのヴィクトリア時代や、日本のスチームパンクの明治・大正時代は薄暗かったからです。

暗がりでナイフを振るう切り裂きジャック、暗躍するホームズとワトソンコンビ、夜の世界で大活劇を繰り広げる怪人二十面相と明智小五郎。ネオンが光るまぶしい街には全く似合いません。彼らはほの暗い明かりのもとで輝くのです。

白熱灯でも工夫すればエコに

陰翳礼讃
エコが叫ばれる今の御時世、電力消費量の大きい白熱灯は風当たりが強くあまり推奨されていません。でも同じ白熱灯でも調光装置で光を絞ったり、また蛍光灯やLED照明でも白っぽい昼光色ではなく電球色のものを選ぶというのはどうでしょう? また部屋を隅々まで照らすような強い天井照明をやめて、必要なところだけ部分的に間接照明を使うというだけで随分消費電力も抑えられるはずです。

日本人は眩しいことと明るいことを混同している

陰翳礼讃
日本人は眩しいことと明るいことを混同している」と批判されることがあります。1996年に行われた調査では日本の住宅の主体照明の実に70%以上がが蛍光灯であったという結果がでました。(2/2 明るさ好きの日本人 [照明・LED] All About

ところが天井に取り付けられた蛍光灯で部屋全体を照らすような明かりは欧米ではほとんどみられません。日本人の白い蛍光灯好きは特異的なものなのです。

こんなに明るいのはここ数十年

陰翳礼讃
しかし『陰翳礼讃』を読めばわかるように日本古来の美は陰影にあり、これほど蛍光灯が好まれているのはここ数十年のこと。日本は街にはネオンが溢れ、コンビニには白い明かりが輝いて、夜でも眩しい国になってしまいました。昭和8年の時点でさえ嘆いていた谷崎潤一郎が、21世紀の日本の夜を見たらなんと言うでしょうね。

東日本大震災は明かりを見直すきっかけに

陰翳礼讃
けれども2011年03月に日本の照明が見直されるきっかけとなった大災害が起こりました。東日本大震災による電力需給問題で節電が叫ばれ、街の夜間照明が控えられるようになったのです。最初は誰もが暗さに不安になりました。でもそのうちに「この方が良い」「快適」という声も上がって来ました。

震災後ベストセラーになった『陰翳礼讃』

陰翳礼讃
そもそも街が眩しいほど明るかったのが異常だったのです。日本人は本当は谷崎の言うようにほの明るい、優しい光の方が合っているのではないでしょうか。震災後『陰翳礼讃』は人気書籍となり、書店で平積みされています。80年前のエッセイは全く古びておらず、賛同する人も多かったからでしょう。

谷崎先生もスチームパンカー?

陰翳礼讃
スチームパンク的にもこの珠玉のエッセイには大変学ぶべきところが多いのですよ。たとえば冒頭では家を建てた際の苦労が書かれているのですが、スチームパンクハウスを目指す私は「そうそう、そうなのよ! よくぞ言ってくれた」と大いに頷きました。

純日本家屋に電化製品がどうしても合わない。電話線は? ストーブは? 扇風機は? 照明器具は? いったいどうしたらいいの? 谷崎先生、苦心の末に昔ながらの行灯を古道具屋で買ってきて電球を取り付けてしています。まるでスチームパンカーが最先端のメカをレトロに改造しているようなものなのです。

試しに電燈を消してみることだ

陰翳礼讃
最新式のトイレの便器にまで「風雅じゃない!」と文句をつけているのには人事に思えず笑ってしまいました。スチームパンカーならきっと共感するはずですよ。何度も何度も読み返してみたくなる格調高い美文にもしびれます。『陰翳礼讃』はスチームパンカーの基礎知識として必読書。ぜひお手にとってくださいね。最後に『陰翳礼讃』の一文で締めくくりましょう。「まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ

追記

陰翳礼讃
日本の照明についての憤りは、私の別ブログ「日本珍スポット100景」の「陰翳礼讃・闇に浮かぶ血みどろの屏風絵「絵金蔵」【高知】」にも書いています。記事は4年前に書いたものです。高知県の「絵金蔵」は絵師・広瀬金蔵の絵がベストの状態で見られる、大変素晴らしいスポットなのでお近くの方は足を運んでみてはいかが。

蒸気夫人

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