【86分実況解説】『夜の来訪者』で英国の階級・文化・歴史が分かる!!

BBCドラマ『夜の来訪者』をリアルタイムで視聴しながら徹底的に解説します。86分間ご一緒に鑑賞すれば、20世紀初頭のイギリスの文化、歴史、背景についてがっつり理解できるようになりますよ。

この動画の内容について

【2】の「夜の来訪者」の86分間実況は、ドラマをご覧になりながら音声を聴いていただけると嬉しいです。実況解説の最後に「エヴァ・スミスとは何者だったのか?」を詳しくお話します。

『夜の来訪者』あらすじ

お話は1912年のイギリス。バーリング家の長女の婚約を祝う祝賀会が屋敷で行われていました。そこへグールと名乗る警部が突然現れたことから、おめでたい食事会が不穏な雰囲気に包まれていく……という内容です。

『夜の来訪者』あなたはご覧になりましたか? 二転三転するストーリーに心が揺さぶられましたね。ラストはしばらく無言になってしまうような、静かな哀しみが心に残ります。

6000以上いいねされたツイート

超オススメのドラマなのでこの間ツイートしたところ、結構評判が良かったんですね。でも「確かに面白かったんだけど、ちょっと良く分かんなかった……」という方も結構いらっしゃったみたいです。

階級の知識がないと分かりにくい内容

『夜の来訪者』のテーマを5文字で要約するなら「階級の悲劇」です。

このドラマを深く理解するには英国の当時の「階級」の知識が必要不可欠となります。でも日本には英国のような階級制度がないので、今ひとつピンと来ないという方もいらっしゃるんじゃないかと思います。

バーリング家は決して上流階級ではない

実際『夜の来訪者』の感想サイトやレビューサイトをざっと見てみますと、ほとんどがこの一家のことを「上流階級」と書いています。

違います。バーリング家は上流階級ではなく、アッパーミドルクラスです。ミドル──つまり中流階級。生まれながらの貴族階級ではありません。

以前英国の「階級制度」についてお話したんですが、単純にアッパーだから上流、ミドルだから中流──みたいな日本語の訳し方は、かなり誤解を生みやすいんですね。

禁断の話題を徹底解説!19世紀イギリスの「階級」とは何か?
スチームパンク界でのあなたの階級は? 19世紀末の英国を舞台にしたスチームパンクの世界において「階級制度」は避けられない知識です。禁断の話題とも言えるタブーに切り込んで、分かりやすく解説します。

階級ごとの肥えられない壁

アッパーミドル以上、ロウワーミドル以下。ここには同じ「中流階級」と言っても越えられない壁があります。さらにアッパーアッパーミドルの間にも超えがたい大きな壁があります。

アッパーミドルクラスの人々の焦げるような願望──切望と言ってもいいでしょう。「貴族のような暮らしがしたい!」という切実な願いに気づかないと、この登場人物の本質を掴むことができません。

日本人の99%が誤解している事を徹底解説

このドラマに関して日本人の99%が誤解している事、また「ここが良く分からない」というポイントを高解像度で分析・考察します。グール警部とは何者だったのか? エヴァ・スミスとはどんな女性だったのか? 全てお答えします。

この動画を見ればあなたは日本人の1%になれます。『夜の来訪者』に描かれた鋭い社会批判皮肉や問題提起をがっつり理解することができます。

それだけではありません。この『夜の来訪者』を私と共に丁寧に見ていけば、今後英国を舞台にした映画、ドラマ、小説などに触れたときも「なるほどね!」と深く味わえるようになります。

階級の知識があればあらゆる英国の物語を深く楽しめる!

『シャーロック・ホームズ』『名探偵ポワロ』『ダウントン・アビー』などのドラマなどいろいろな物語に応用が効きます。99%の方がその物語の半分しか堪能できなくても、この動画を見た上位1%のあなたは、説明されていない深い部分まで知ることができるんです。

同じお金と時間を使って鑑賞するなら「うーん、面白いんだけどなんかようわからん」というよりは、100%フルに楽しみたいと思いませんか?

というわけでこれからご一緒に『夜の来訪者』を見ていきましょう。私が画面を見ながらずーっとしゃべる動画です。いわゆる副音声、オーディオコメンタリーです。

1 動画は完全にネタバレします。できればまずは一人でご覧になって、その後にこの動画を見ながらもう一度見るのをオススメしています

2 『夜の来訪者』は元は戯曲なので舞台、映画、ドラマなど様々なバージョンがありますが、この動画はあくまでもBBCドラマの『夜の来訪者』の解説となります

3 私が話している内容はBBC公式の見解でもなく、原作者のジョン・ボイントン・プリーストリーが言及しているものでもありません。私がこれまで得た19世紀末から20世紀初頭の知識を元にした私的な考察となりますのでどうぞご了承ください。

86分間・リアルタイム『夜の来訪者』解説

グール警部とは一体何だったのか

冒頭と最後でエヴァは神を信じると言っています。ではグール警部は神だったのでしょうか? 違いますね。神ではありません。なぜならキリスト教世界において、自殺は絶対にしてはならないことだからです。キリスト教の神はエヴァを救わないのです。神は自殺をした者に対して非常に無慈悲だからです。

ではグール警部は何だったんでしょう? グール(Goole)という名前ですが、英語圏の人は音がほぼ同じである「ghoul」をすぐに連想します。グールは怪物や幽霊の一種で死肉を喰らう「悪魔」とも言われています。若い人だと『東京喰種』で知ってるかもしれませんね。

原作者のプリーストリーが具体的に言及していないので、舞台の演出家や脚本家、研究者によって様々な解釈があります。はっきりしているのは彼は超自然的で何かであって、人間ではないということです。

グール警部=悪魔?

私個人は「悪魔」であると解釈しています。

彼は全て答えを知った上で、バーリング家の一人ひとりを尋問しました。グール警部が去った後エヴァが亡くなるまでまだ時間がありました。この時「誰も死んでいなかった」と浮かれていないで、すぐに何らかの行動を取っていたら、ひょっとしたらエヴァは助かっていたかもしれません。

でも皮肉ですね。神を信じていたエヴァなのに、最後を看取ってくれたのは悪魔なんですね。神ではなく悪魔が鉄槌を下すんです。悪魔なのに貧しい人々への共感を抱いて、彼らの苦しみを代弁し、おごった人間たちを糾弾したのです。

これは我々観客の鉄槌でもあります。「この世界に正義はないのか!?」と憤る観客、「善良な人間が少しでも報われてほしい」という観客の代理人でもあるのです。

『夜の来訪者』の主題は何か?

この物語から得られる教訓は何でしょう?

私達は誰もがエヴァ・スミスになりうるということだと思います。19世紀は階級の大逆転が起こった時代です。生まれが貧しくても努力して這い上がる人もいる。その一方で人生が順調だとしても、なにかのきっかけで転落してしまう人もいるんです。

アッパーミドルクラスまで出世し富と権力を得たアーサーも、一人の女性の自殺によって世間の晒し者になり、失墜する未来が待っています。またただ運が悪かったばかりに、エヴァのように地獄の苦しみを味わう可能性は誰にだってあるんです。

勝ち組、負け組──世知辛い言葉ですね。人生なんてこのドラマのように二転三転するものです。勝ち組、負け組なんて息を引き取る最後の瞬間まで分かりません。

全てが自己責任で本当に良いのでしょうか?

今の日本には「階級制度」はありません。でも「格差」はあります。

自己責任──ネットでよく言われる言葉です。でも私はこの言葉がすごく冷たく思えるときがあります。同僚のために工場主に抗議をして、盗んだお金に手を付けず、愛する男たちのためにそっと身を引いたエヴァ。一生懸命努力しても気高く生きていても、誰だって不幸が重なることはあります。でもそれが全部本人のせいなのでしょうか?

「自己責任だ」「努力が足りない」と言って、社会が弱者を切り捨てるのは本当に正しいことなのでしょうか?

我々全員がバーリング家の人々になりうる

そして我々全員がエヴァになりうるという一方で、また我々全員がバーリング家の人々になりうるということでもあります。

グール警部の最後の演説にもありました。「利己主義に走らず 互いに責任を持つのだ」と。エヴァの悲劇は我々人類全ての人間の責任なのです。

人間は欲望の塊です。「お金持ちになりたい」「年収1千万になりますように」「誰もが羨むような人と結婚したい」「タワーマンションに住んでみたい」──

「貴族のようになりたい」と願うアーサーと同じく、みんな誰もが心に欲があります。虚栄心、見栄で人を見下すシビルのような心もあります。シーラのようにたまたま機嫌が悪くて八つ当たりをしてしまったり、エリックのようにお酒や快楽に溺れてしまうことだってあります。

自分では思ってもみなかった悲惨な結末を招くことは、誰だって起こりうることなんです。

大事なのはシーラやエリックのように変わろうとする心

そんな時に必要なのが変わろうとする心です。長く続いたヴィクトリア朝時代は、女王の死とともに1901年に終わり、20世紀とともに新しい時代の幕開けとなりました。

老害と呼ばれる古い世代の人間は変われないかもしれません。でもこれからの未来を担う若者は、自分を意思の力で心を変えることができるんです。

『夜の来訪者』は階級、年齢、性別など様々な2つの世界の対立構造を見せることで、変わる勇気を気づかせてくれる物語です。

『夜の来訪者』このBBCのドラマは2015年の作品ですが、戯曲として書かれたのは1945年です。今から80年も前のお話なんですね。でも全く古びていません。私達は『夜の来訪者』から学ぶことはたくさんあります。

これで英国の全ての階級についてあなたは物語とともにしっかり把握できたと思います。英国を舞台にしたドラマ、映画、小説などに触れた時、ぜひ『夜の来訪者』を思い出してみてくださいね。

動画で見る『夜の来訪者』解説

参考文献



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An Inspector Calls (wikipedia)

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