スチームパンクをより深く理解するために・蒸気機関とは何か?

蒸気機関
蒸気機関。スチームパンクには欠かせないモチーフです。蒸蒸気が作る動力を人間が発見し応用したのははるか昔、なんと紀元1世紀の古代ローマ時代までさかのぼります。その歴史を解説。

蒸気機関の黎明期(ギリシア時代)

ギリシア人の工学者・数学者ヘロンは、高校生以上の方ならヘロンの公式(三角形の面積を求める公式)でご存じかもしれませんね。彼は古代ローマで活躍し、蒸気圧力を使った、蒸気で開く自動ドア、蒸気タービンなどを発明しました。

蒸気で動くアイオロスの球

蒸気機関
この画像は蒸気で動くしかけ、アイオロスの球です。球の内部で水を沸騰させると、ノズルから勢いよく蒸気が噴き出し、球がクルクル回る仕掛けです。でも具体的にこれが何らかの装置として実用化された記録はなく、蒸気機関の本格的な発達には17世紀の終わりまで待たねばなりません。

蒸気機関の発達(17世紀末)

蒸気機関
1695年にドニ・パパンが初の蒸気エンジンを試作し、1698年にイギリス人発明家のトーマス・セバリーが真空エンジンによって水をくみ出す機械を開発しました。そしてついに1712年、イギリス人トーマス・ニューコメンがセバリーの装置を改良し、鉱山の排水用に実用化された蒸気機関を発明しました。

ニューコメンの発明は上部に天秤(ビーム)がついていて、そのビームの前後運動と、ビームと連結したシリンダ内のピストンの上下運動が、蒸気の凝縮による気圧の変化で得られる動力によってくり返されるものです。

蒸気機関の仕組みを動画で

右下部の容器が熱せられて蒸気が筒状のシリンダに入り、それが冷水によって冷まされます。シリンダの中の圧力が下がって右側の天秤につながっているピストンが下がりますよね。そうすると天秤の左側が上がり、その動力で水がくみ上げられてまた蒸気を冷ます冷水になります。

左の天秤が重りで下がると、容器の蒸気がシリンダに入り、冷水で冷まされ……というのをくり返す仕組みです。

蒸気機関の最盛期(18世紀)

蒸気機関
ジェームズ・ワットによる新方式の蒸気機関(1769)、リチャード・トレビシックの小型蒸気機関車(1802)、ジョージ・スチーブンスンの機関車ブリュヘル号(1814)、と次々に機関車の発明が続きました。でもまだまだスピードは遅く、蒸気機関車のロケット号は時速47キロだったそうですよ。現代のクルマ社会に住む私たちからすると遅いですね。

その後、大西洋を横断した蒸気船サバンナ丸(1819)、イギリス海峡横断のシリウス丸(1838)と蒸気船も発達していきました。そして紡績など工場制機械工業による産業革命の立役者として蒸気機関は大活躍しました。

トヨタテクノミュージアムの蒸気機関を動画で

この動画は愛知県名古屋市にあるトヨタテクノミュージアム(産業技術記念館)に行ったときに蒸気機関を撮影したものです。100年以上前に造られた国内最大規模の蒸気機関。巨大なフライホイール(はずみ車)やクランクシャフトが動く様は胸がわくわくしませんか。

ただしこれは旧豊田紡績が昔紡績工場で使っていたもののレプリカで、安全性のために展示室では蒸気でなくモータで動いている。

蒸気機関の終末(19世紀~現代)

蒸気機関
そして19世紀後半になって、内燃機関による動力が発明されると状況が一変。蒸気機関の外燃機関に対して、燃料が燃えて高熱ガスを生成しシリンダ内部のピストンを上下運動させる仕組みです。

蒸気機関はマシンそのものの重量があるのでエネルギー効率が悪かったり、爆発事故が絶えないなど危険とも隣り合わせ。一方内燃機関によるエンジンは小型で軽量、効率も良いので自動車、飛行機などあらゆる乗り物のエンジンとして広まりました。

スチームパンクの世界

蒸気機関
蒸気機関は内燃機関の発明によってあっという間にすたれて、ご存じの通り現代のエレクトロニクス&デジタル全盛の時代になりました。

スチームパンクは蒸気機関が発達を続け、高度なテクノロジーと結びついた空想の世界を描いています。スチームパンクワールドでは巨大な外燃機関をいかに小さく作るか、SFとしていかに上手いウソをつくかがSF作家の腕の見せ所と言えます。

海外のスチームパンカー

蒸気機関
スチームパンクな作品を発表している海外のスチームパンカーの中には、蒸気機関で走るモペッド(The Steam Car Club of Great Britain)などとことん蒸気にこだわって制作している方々もいますが、PCやモニタなどデジタルガジェットをレトロに装飾・改造する方が多いようです。毎日使うようなパソコンを蒸気エンジンで動くようにするのは現実的ではありません。でもそんな無謀な試みも面白いですね。

もし日本ならどんな世界?

蒸気機関
もし日本でもずっと明治・大正の文化が続いていたら、蒸気機関が発達していたらどんな世の中になっているんでしょう。

ジーンズやTシャツじゃなくて改良型の着物を着てるのかしら。アルファベットがとりまく文化でなく、看板もロゴも漢字ばかりの表記でしょうか。トヨタ産の巨大な蒸気自動車が道を走ってる? 小型の日本製蒸気機関製品が世界中で大人気かも? あなたもいろんな想像を膨らませてみませんか。【蒸気夫人(マダムスチーム)】

迫力の蒸気機関「トヨタテクノミュージアム・産業技術記念館」【愛知】
愛知県名古屋市のトヨタテクノミュージアム・産業技術記念館はどこを向いても歯車だらけ。巨大な蒸気機関、クラシックカー、歯車の仕組みを学べる体験館など見どころいっぱい。
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