原作とは別物!?『リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い』

リーグ・オブ・レジェンド 時空を越えた戦い
コミック『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』の映画化作品『リーグ・オブ・レジェンド 時空を越えた戦い』。……でも原作とは全くの別物。な、なんじゃこりゃー!?

超人勢揃いの冒険活劇『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』
コナン・ドイル、H・G・ウェルズ、ジュール・ヴェルヌ──名前を聞いただけで胸がときめいたあなたにぜひお勧めしたい『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』。

登場人物紹介

■アラン・クォーターメイン
■ウィルヘルミナ・ハーカー(マリー)(ただし現役吸血鬼として)
■ネモ船長
■透明人間(ただしホーレイ・グリフィンでなく泥棒ロドニー・スキナーとして)
■ヘンリー・ジキル博士&エドワード・ハイド
■ドリアン・グレイ
■トム・ソーヤー

『リーグ・オブ・レジェンド 時空を越えた戦い』は20世紀フォックス肝いりの映画で名優・ショーン・コネリーが主演しているということもあって、かなりの方が映画館やDVDでご覧になったのではないでしょうか。

映画版の特徴

映画版は原作コミックにあったエロ・グロ・バイオレンスを一切排除してます。アラン・クォーターメインは麻薬中毒者でないし、透明人間はロリコンでもない。続巻のアランとマリーの例のシーンやグリフィンとハイドのショッキングシーンも全てカット。

映画は完全にオリジナルストーリーです。同じ部分はキャラクタのみ。以上。

ということはコミックから「古典SFの登場人物が集結」というコンセプトを持ってきただけ? いや、もともとのキャラクタって古典SF作品の主人公たちなんだから、もはやコミックの映画化でもなんでもないのでは?

『リーグ・オブ・レジェンド』がウケなかった理由

『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』の面白さは、古典SFのパロディという楽屋落ちです。元ネタを知らないと全く面白くもなんともない。だから案の定、ネットの映画評をあちこちあさって見ていると

「ネモ船長が、『ふしぎの海のナディア』とイメージが違う(※1)」
「『超人紳士同盟』という名前がダサイ(※2)」
「なぜショーン・コネリーをキャスティングしたのか分からない(※3)」

みたいなトンチンカンな感想がいっぱいです。でもそれは無理もない話。

1……ネモ船長はいったい何人なのか? ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』ではネモ船長の国籍は不明となっている。「ネモ」という名もラテン語で「誰でもない者」という意味だ。しかし『神秘の島』という作品では、インドの大公の息子と書かれているので、実はネモ船長はインド人なのである。だからこの映画のインド風衣装のネモの方が原作のイメージに近く、『ふしぎの海のナディア』の方がアレンジバージョンなのである。
2……「超人紳士同盟」とはジョン・ボーランドの『紳士同盟(The League of Gentlemen)』が元ネタ。映画化もされている。ヘムリングソン元少佐の元に9人の元軍人が集まり、銀行強盗を計画するという犯罪小説。元軍人たちはそれぞれある種のエキスパートであり銀行襲撃計画において才能を発揮するのだが、チーム内に裏切りや疑惑渦巻く心理戦が展開するのがミソ。『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』のストーリーも『紳士同盟』の誰が裏切り者なのかというミステリのスタイルを受け継いでいる。

3……ショーン・コネリー演じるアラン・クォーターメインは秘境を舞台に活躍する冒険家。『キングソロモンの洞窟』『洞窟の女王』などのシリーズで知られる。『キング・ソロモンの秘宝 ロマンシングアドベンチャー』という映画にもなっているのでご存じの方も多いだろう。

日本では知名度がないアラン・クォーターメインだが、スピルバーグの大ヒット映画『インディ・ジョーンズ』ジョーンズ博士のモデルでもあるといわれる(※実在の探検家や考古学者・ロナルド・ワイアットやF.A.ミッチェル・ヘッジス、パーシー・フォーセットなどをモデルとする説もある。つまり昔は探検家や考古学者がたくさんいたのだ)。アクションヒーローとしてのイメージはアラン・クォーターメインが一番インディに近いのではないかと個人的に思う。

また黒幕と超人たちを結ぶ、イギリス諜報部員の名はボンド。当然007ことジェームス・ボンドを連想する。ジェームス・ボンドと、インディの父親役を演じたこともあるショーン・コネリーは物語全体との関わりが深く、それほど突飛なキャスティングではない。

SFがそれほど浸透していない日本では受けないかも

アメリカはSFマニアの層が厚いのですが、日本では古典SFなんてニッチなマニアしか読んでないんですよ。なのに映画の中では登場人物に関する説明がほとんどないので、大部分の観客は置いてけぼり。ハリウッド映画だからという理由でご覧になった方は「なんだかワケが分かんない」ってことになってしまうかも……。

明らかに浮いているトム・ソーヤー

一番の問題はトム・ソーヤー。みんな英国小説の主人公ばかりだから、アメリカ人も1人混ぜたのでしょうか。でも『トム・ソーヤーの冒険』のトムはユニークな腕白少年ではあるけど、超人とまではとても言えません。

当然他のメンバも「なんだこいつは?」と思うらしく、マリーに「(あなたは)何を助けてくれるというのかしら?」と皮肉っぽく言われてしまいます。それに対してトムの答え「力仕事、話し相手……便利な男ですよ」。本人自覚しているところが悲しい。マリーに華麗にスルーされるトム。

一応とってつけたように、改造ウィンチェスター(※4)の名手ということにはなってるけど……。

4……ウィンチェスターは西部劇に最も良く登場するレバーアクションライフルである。オリバー・ウィンチェスター創業のウィンチェスター社の大ヒット作。ウィンチェスター家はウィンチェスターライフルで巨額の財産を築いたが、間もなくしてオリバーの孫、オリバーそしてオリバーの息子ウィリアムが次々に亡くなった。

銃によって殺された人々の呪いだと震え上がったウィリアムの嫁・サラは、占い師の助言により家を毎日40年間も改築・増築し続けた。それが有名なアメリカの珍スポットウィンチェスターミステリーハウスなのである。ちなみに私が今最も欲しいアイテムはウィンチェスターライフルM1873。

……とまあこの記事のようにマニアが己のウンチクを披露できる格好の作品です。ショーン・コネリーが主演している割に知名度がない原因は、このマニアのウザさが一般人にとってウケなかったからではないでしょうか。

スチームパンカーのための見どころ

でも映画に登場する小道具、大道具、セットはスチームパンカーのあなたにも自信を持ってお勧めできる出来ですよ。ネモ船長の潜水艦ノーチラス号や、デコラティブな自動車は必見。

ノーチラス号は原作コミックとはデザインが全く違いますが、登場シーンは思わず目を見開きました。今までにいろんな本でノーチラス号のイラストを見てきましたが、これ以上のドンピシャのノーチラス号はないと思う、私の中では一番素晴らしいノーチラス号です。

それに最初にアラン、ネモ船長、マリー、スキナーが最初に集結する部屋とドリアンの邸宅は美しいヴィクトリアンスタイルです。天井まで届く本棚に目が釘付け。マリーのファッションも勉強になりますし、フラスコやビーカーいっぱいの実験室も素敵です。

それからアクション。特にネモ船長のエキゾチックな殺陣(たて)。カメラワークでごまかしてるヘナヘナアクションと違って、ガチで強そうです。この船長なら海の荒くれ男たちも歯が立ちません。艦内の統制まで想像できてしまうような実に良い動きでした。

他のメンバもアクションにそれぞれ個性が出ていて面白いですよ。スチームパンクなグッズもたくさん登場しますから、背景や画面の端々にも注意してみてくださいね。

まとめ

私のように原作コミックを見てから映画を見るとがっかりしてしまうかもしれません。でも映画とコミックは全く別のメディア。映画ならではの見どころもありますので、これはこれでありかなと。ドリアン・グレイが美青年だったので私的にはそれで全部チャラでした。

【蒸気夫人(マダムスチーム)】

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