日本の既婚女性の第一礼装・黒留袖を使って、女性の私が着るための「舞踏や舞台衣装に向いた燕尾服」を作りました。燕尾服(モーニング・イブニング)の違いや特徴についても解説。
生き方の基準は、正しいか正しくないかではなく、美しいか否かである
日本の既婚女性の正礼装・黒留袖の燕尾服
二ヶ月間かけて夜の正礼装・燕尾服(イブニングコート)を上から下まで一式作りました。日本の既婚女性の正礼装である黒留袖(くろとめそで)を元にしてあるので、後ろの燕尾部分が鶴が飛翔するおめでたい絵羽模様(えばもよう)になっています。
2ヶ月間がんばって作りました
■イブニングコート
■ドレスシャツ
■パンツ
■コルセットベスト
■ボウタイ
■トップハット
■ポケットチーフ
が自作のものとなります。長くかかりましたがとてもやり甲斐のあるチャレンジでした。
モーニングコートとイブニングコート
ところでいわゆる燕尾服ですが、午前中に着るモーニングコートと、夕方から夜にかけて着るイブニングコートの二種類があります。 でも日本では時刻によって服装を変えるという習慣がないので、モーニングもイブニングも単なる「燕尾服」として混同されてしまうことが多いようです。
ドレスコードを間違うことは致命的なマナー違反になります。 うっかり別の燕尾服を着ていくと針のむしろのような気まずい雰囲気を耐えねばならないかもしれません。
どちらの燕尾服か迷った時は
昼間に行われるパーティーでモーニングかイブニングかどちらの燕尾服を着たら良いか迷われる場合は、その会の内容が「儀式・式典」なのか「宴会・舞踏」なのかを考えれば良いかと思います。 結婚式やお葬式など儀式的な内容ならモーニング、パーティーのような華やかな内容ならイブニング。
でもどうしても判断に困ったらモーニングなのかイブニングなのか主催者に問い合わせるのが一番ですね。
五つ紋の黒留袖
燕尾服の元になるのは五つ紋の黒留袖です。ご存知の通り黒留袖は既婚女性の第一礼装。イブニングコートと礼装の格が釣り合っていますし、色もちょうど真っ黒。女の私が着る燕尾服の生地として黒留袖は最適であると考えました。絵羽模様を燕尾の裾に使えば、回転した時にかなり舞台映えすると思います。
鶴が舞い飛ぶおめでたい柄
鶴が舞い飛び、松や菊が金糸で華やかに彩られています。ヤフオクで1000円で入手しました(安!)。この黒留袖はかなり恰幅の良いご婦人用だったらしく、着るのにかなり苦労しました。でもその分たっぷりと生地をとることができそうですね。
コスプレ用燕尾服を参考に
『黒執事』の大ヒットによりコスプレ用燕尾服の型紙がたくさん出回るようになりました。今回は『いろいろ作れるCOS衣装』『仮想衣装Bside』そしていつもお世話になっている、うさこの洋裁工房様の3つの型紙を参考にさせていただくことにしました。
【1】型紙作り
ただしどれもコスプレ用としての型紙でかなりアレンジされているため、実際の燕尾服と違っている部分が多いことが分かりました。また踊るための燕尾服にするにはどの型紙もかなり補正する必要があります。そこで3つの燕尾服型紙を参考に自分で型紙を作ることにしました。
参考にした洋裁本
今回参考にさせて頂いた洋裁本です。 『誌上パターン塾トップ編』、『美しく着やすい型紙補正』、『工夫された衿・衿ぐり』、『接着芯の本』、『やさしい接着芯と裏布の使い方』 。洋裁学校に行ったことがなく独学で本から学びました。間違ったやり方をしているかもしれませんがどうぞご容赦を。
【2】型紙作り
型紙ができました。個人的な感覚では型紙作りは洋裁の全行程の50%ぐらいを占めると思います。残りは補正20%、裁断・印付け10%、縫い合わせ20%。とにかくそれぐらい重要で気を使う作業です。
【3】試作品作り
いきなり黒留袖で作るのは怖すぎるので、まず手頃な布で試作品作って補正を繰り返すことにしました。 実際に腕を上げたりホールド組んだり、踊ってみたりしないと、わからないところがあるからです。
【4】試作品の仮縫い
試作用の布を縫い合わせました。何度も試着を繰り返しては、体ぴったりになるようにしつけ糸で縫いとめていきます。腕を上げたり下げたり。肩が上がったりどこか引きつれるようなら、解き直してまた補正します。 面倒だけどここが頑張りどころです。ドレープが優雅に見えるように袖はやや太めにしました。
競技ダンスの燕尾服仮縫いの様子
余談ですが競技ダンス(モダン)の男子選手が競技会用の燕尾服を作る時は、仮縫いの燕尾服を着てフロアを踊ります。テーラーさんがその後を走って追いかけて、背中にシワが寄らないようにピンを打っていきます。 「燕尾服 仮縫い」で画像検索してみると踊りながら仮縫いをしていることが分かりますね。
着物リメイクに関する書籍
図書館で着物リメイクに関する本を片っ端から読みました。分解の方法や洗い方、注意点などについて学びます。衿から解く方法と、袖から解く方法があるのですが、どちらでも構わないのかもしれません。
【5】黒留袖を一枚の布に
黒留袖をリッパーで丁寧に解いていきます。着物は分解すると一枚の布になるのが素晴らしいですね。昔は最後に雑巾になるまで布を使い切ったといいます。リ解いた黒留袖をドライクリーニング用の洗剤でつけ置き洗い。そして陰干し。金糸・金彩があるので気を使います。
【6】生地をカット
留袖は裾に絵羽模様(えばもよう)と呼ばれる、絵柄が続いている一枚絵のような模様付けがされています。 解いた布を順番に並べて、どのあたりの位置で燕尾服の裾の絵柄を出すか十分に検討して裁断します。
【7】印付け
表地(黒留袖)、裏地(ベンベルグ)、接着芯(厚地、薄地)を全て裁断し、印付けをします。
接着芯と裏布に関する書籍
接着芯と裏地について参考にした書籍は 『接着芯の本―失敗しない接着芯の選び方、はり方』と『やさしい接着芯と裏布の使い方』です。洋裁本はすごく細分化されていますね。
【8】接着芯を貼る
接着芯を貼る作業です。ラペル部分と裏衿は袖まんじゅうで丸みをつけながらアイロンで押さえました。接着芯は部分部分で適切な厚みのものを選びます。
【9】丸みつけ
本当はジャケットのラペル部分はハ刺しを行うのですが、今回は接着芯にしました。芯をハ刺しで完全に手縫いにすると1800針も縫うことになるそうです。職人さんはすごいですね。
【10】裏布を縫う
裏地のベンベルグは柔らかく滑って縫いにくいので、ハトロン紙と一緒にゆっくり縫います。またハトロン紙の紙の厚さ分のゆるみが出るので、つれにくくなる効果があります。裏地を作ると同時に表地も縫い進めます。
【11】衿つけ
襟がつくと一気に洋服らしくなりますね。ピークドラペルは格好いいですね。 礼装用なので襟部分にステッチは入れません。フォーマル度が高いスーツはステッチなしのことが多いです。フラワーホールは最後に縫います。
ラペルは桜模様のちりめん生地
燕尾服のラペル(襟)部分は、普通光沢のあるシルクを使いますが、私は黒留袖で燕尾服を作っているので、桜模様の縮緬(ちりめん)生地を使いました。コルセット型ウエストコート(ベスト)の白い桜縮緬と色違いのものです。

【12】燕尾部分を縫う
しっぽがつきました。鶴が舞い飛ぶ黒留袖。 裏地は総裏のフルライニングです。 社交ダンスなど舞踏用の燕尾服は、普通の燕尾服と違ってしっぽが長いです。長い方がターンした時に見た目が美しいからですね。個人的にも長いテールが好きですが、長すぎると裾を踏んでしまいますよ。
【13】おもりを入れる
舞踏用の燕尾服が普通の燕尾服と違っている点は、裾部分におもりが入っていることです。おもりを入れると、回転した時に遠心力で裾が美しくはためくからです。 私は水草用のおもりを入れました。柔らかいので危なくありませんし、水槽用だから洗濯もできます。
【14】袖付け
袖を付けました。フルライニングなので、丁寧に手縫いでまつります。舞踏用の燕尾服は通常の燕尾服とは袖の型紙が違っています。肩が上がると試合で減点ポイントとなるため、腕を水平に上げた時に肩が絶対に上がらないようにしなければならないからです。
舞踏用の燕尾服の袖部分
肩が盛り上がらず、裾がずり上がらないジャケットをつくるためには
■袖山を低くする
■アームホールを小さくする
■脇の下の部分の型紙を凸型にする
などの工夫が必要です。 特に脇下の楕円形の布地のゆとりは、水平以上に腕を上げることを可能にし、腕の可動域をさらに広げる効果があります。
【15】くるみボタンを作る
余り布を利用して燕尾服のくるみボタンを作ります。
■大2個(腰の部分)
■中6個(胸の部分)
■小8個(腕の部分)
です。
【16】袖口、ボタンホール、ボタン付け
袖口の処理、ボタンホール、ボタン付けをします。ボタンホールはミシン縫いではなくて手縫いにしました。
【17】フラワーホールを縫う
スーツの衿の部分にある穴は、フラワーホールとかブートニエールと呼ばれる花を刺すためのものです。スーツだと社章をつけている人が多いかと思いますが、本来は社章用の穴ではありません。
季節のお花を飾りましょう
もともとは相手に対する礼儀や敬意を示すために衿にお花を飾っていたのです。季節のお花をちょこんと刺したりすると素敵ですね。
【18】完成!
踊るためのご婦人用燕尾服完成です! 制作開始日は01月23日、終了日は02月14日で22日間かかりました。正確な制作時間は50時間でした。
型紙ができるまで25時間と半分の時間が型紙作りでした。1日の製作時間は約2時間だったので毎日長時間やれるのならもうちょっと早く縫えたと思います。
イベントで燕尾服を着てみました
これはスチームガーデン11の様子。読者の方より送っていただいた写真です(お名前を失念してしまいました。ぜひご一報を)。回転するとこんなふうにふわっと燕尾が揺れます。この燕尾服、いろんなイベントで着られるといいな。【蒸気夫人(マダムスチーム)】
