正礼装用のウィングカラー・ピンタックブザムのドレスシャツを作りました。ダンス用なので腕を上げても全く引きつれがありません。テーラー五十嵐によるフルカスタマイズのシャツです。
ダンディは一流の芸術家である必要などない。ダンディそのものが一流の芸術品だからだ。
テーラースタイルで洋服作り
この一連の記事は「テーラー五十嵐」のタイトルがついています。テンションを上げるためにも、物差しに巻き尺のテーラースタイルで洋服作りをしてみました。私は何事も形から入るタイプなのです。
正装用(ダンス用)のドレスシャツを手作り
出来上がったシャツはこちら。
■女性用
■ウィングカラー
■ピンタックブザム(前ヨーク・胸当て)
■飾りボタン
■パフスリーブ
■ダブルカフス
の正装用ドレスシャツです。このシャツが一般のドレスシャツと違っている最大の点はダンス用にカスタマイズしてあるところです。
普通のシャツとダンス用シャツの違い
この二枚のシャツは同じように見えます。左側が今回私が作ったダンス用のシャツ、右側は似たようなデザインの普通のシャツです。
衿の形がウィングカラー(左)とスタンドカラー(右)である他はヨーク(胸当て)にピンタックも入っているし、デザインにそれほど違いはなさそうですね。
腕を上げた時に分かる違い
でも腕を上げるとシルエットががらりと変わってしまいます。ダンス用シャツは腕を上げてもほとんど形が変わらないのに、普通のシャツはあちこちでひきつれを起こし、肩と裾が上がってしまいます。お腹が丸見えでかっこ悪いですね。いったいなぜこんな風になるのでしょう?
競技ダンス(社交ダンス)における姿勢
競技ダンス(社交ダンス)の試合においては、肩が上がるとホールド(組み方)が崩れるので減点になります。よく「男女が組んだ瞬間に、ダンスの腕前が分かってしまう」とも言われているぐらいホールドの形は重要です。
衣装のせいで肩が上がって見えるのは致命的
ダンス用ドレスシャツ(上)と、普通のシャツ(下)の比較です。同じように身体を動かしているのに、衣装のせいで肩が上がって下手に見えるのは致命的です。一般の正装シャツと指揮者やダンサーなど腕を上げることが多い人が着る正装シャツは、型紙が全く違うのです。
アルゼンチンタンゴと社交ダンスのタンゴの違い
ちなみに男女のカップルで踊るダンスでも、社交ダンス(競技ダンス)のホールドと、アルゼンチンタンゴのホールドでは全然形が違うんですよ。 社交ダンスのコンチネンタルタンゴと、アルゼンチンタンゴは、同じ「タンゴ」と言えども全く別物。でもどちらのタンゴも肩が上がって見える姿勢は良くありません。
【1】 型紙作り
さて、ではシャツ作りの工程です。最初は型紙作り。私が参考にしたのは『誌上・パターン塾 Vol.1トップ編』と『美しく着やすい型紙補正』です。この2冊があればあらゆる種類のトップスの型紙を、 自分のジャストサイズで作ることができます。超お勧めです。
【2】地直し
購入した生地は東洋紡のポリエステルブロード(45番手使い)のホワイト。145cm巾で2m買いました。ポリエステルが入っているのでシワになりにくく扱いやすい生地です。最初にやるのが地直し。最近の生地は地直ししなくて良いという方もいらっしゃいますが一応やっておきました。
【3】仮縫い、前身頃ヨーク、肩と脇
仮縫い→試着、前身頃ヨーク、ダーツ、肩と脇 ────まで完了しました。Amazon プライムビデオで『魔法少女まどか☆マギカ』を見ながら縫い物。3話を見終わった後あまりのことに呆然としました。えっ……。な、なにこれ!? 私が思ってた魔法少女と違う!
【4】襟付け
襟(衿)がつくと一気に服っぽくなりますね。 ピンタックのブザム(前ヨーク)にウィングカラーです。『魔法少女まどか☆マギカ』、すごく感動的なSFでした。
【5】袖口と剣ボロ
袖口と剣ボロを縫いながら『オカルティック・ナイン』を見始めました。でも主人公が「転載アフィブログ管理人」という私の敵なので、冒頭からムカムカしっぱなし。我聞悠太、貴様は死後さばきにあう。 でも『ムー』(らしき雑誌)が出て来るから我慢して見ました。30年以上ムー民だから。
【6】袖のカフス
袖のカフスまで縫えました。ちなみに洋裁は独学です。ミシンは8歳の時から使っていますが、洋裁学校に行ったことはありません。みんな本で学びました。本は何でも教えてくれます。中でも『うさこの手作りスチームパンク&クラシカルドレス』はうさこさんの詳しい解説で誰でも簡単にお洋服作りができますよ。以上宣伝でした!

【7】特別な袖の型紙
ところで競技ダンスや指揮者の着る衣装は特別な型紙で作ると書きました。腕を腕を上げ下げしても、肩の位置が変わらず裾がずり上がらないようにするため、型紙は身体にピッタリのサイズで立体的に作る必要があります。特に肩の部分は難しいですね。何度も型紙を作り直しました。
【7】袖付け
型紙の修正法は前述の『美しく着やすい型紙補正』に詳しく書いてありますよ。今回も大変お世話になりました。仮縫いと試着を繰り返し、ようやく袖がつきました。ここまでで8割ぐらいできあがりました。
【8】ボタンホールとボタン付け
さあいよいよ最終段階。ボタンホールとボタン付けです。ボタンホールをリッパーで切る時は緊張しますね。何着作っても慣れません。
男性と女性のシャツの大きな違い
男性のシャツと女性のシャツの一番の違いはボタン(ボタンホール)の位置です。女性のシャツは自分から見てボタンは左側にありますが、男性用のシャツのボタンは右側にあります。
もともとボタンつきの服は貴族が着る高級品で、男性は自分で服を着て(右利きが多いからボタンは右側)、女性は(向かい合わせの)召使いが着せていたから──と言われていますが、いろんな説があるので本当ははっきりとはしていません。
正礼装におけるボタンの決まり
モーニングコートやイブニングコート──いわゆる燕尾服は、ノーベル賞授賞式や天皇陛下の園遊会でも着用される最上級の礼装。だから細かい決まりごとがあります。
例えばボタンは正式には前立てにはシルバーメタルに宝石をあしらった飾りボタンと、最高級品の白蝶貝のボタンを使わねばならない── とされていますが今回はシルバー&ラインストーンボタンとプラスチックボタンを使いました(ニューギニア産は高いから)。飾りボタンは本来はスタッズ式ですね。
正礼装ではボタンの位置も決まっている
そしてボタンの位置も明確に決まっています。襟に1個、ボウタイと前ヨーク下部の間に3個。 上のボタンは宝石をあしらった飾りボタン。他はフラットボタン。でも女性は3個だと隙間から胸が見えてしまうので、4個にした方がいいと個人的に思います。この辺は臨機応変にしてもいいんじゃないかしら。
衿をつけ縫い直して完成!
一度作った衿ですが、昔のイラストや写真を見ると正礼装用ドレスシャツの衿が現代のものよりもかなり高いハイネックなことに気が付きました。決して間違いというわけじゃないのですが、時代考証的に気になったので衿を全部はずして作り直ししました。さあ、完成です!
正礼装なのになぜダブルカフスなのか?
実はこのようなダブルカフスよりも、シングルカフスの方が格式が高いのです。 カフスを折り曲げるのは腕まくりの労働を連想させるからですね。でもダブルカフスはシングルカフスよりも美麗で豪華だから、燕尾服のドレスシャツとして着用OKとなっています。私のシャツは優美さを優先してダブルカフスにしましたよ。【蒸気夫人(マダムスチーム)】