バッスルにクリノリン? ヴィクトリア時代の女性の下着について

クリノリン&バッスル
ふんわりとしたロングスカートはヴィクトリア時代のドレスの象徴ですが、時代によって随分スタイルが変化します。バッスル? クリノリン? スカートを膨らませる下着について解説します。

64年間も続いたヴィクトリア朝

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Photo credit: jean louis mazieres via Visual Hunt / CC BY-NC-SA

ヴィクトリア朝と言っても、実はその期間は64年間もあります。ヴィクトリア女王は1837年から1901年の長きにわたって英国を統治していたからです。女性のファッションもその間に様々に変化しています。例えばスカートのスタイルは同じヴィクトリア朝でも年代によって驚くほど違っています。

女子高生のスカート丈に似ている?

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Photo credit: lefthandrotation via Visual hunt / CC BY-NC

これは「女子高生のスカートのスカート丈」に似ているかもしれません。100年後の日本人は昔の女子高生の制服はみな同じだと思うでしょうね。でも80年代のスケバン(超ロング)、90年代のコギャル(超ミニ+ルーズソックス)、長すぎず短すぎずで落ち着いた2000年代以降の制服はそれぞれ全く違いますものね。

1860年代後半

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Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey (Dover Fashion and Costumes)

まずはスカートの膨らみについて『Victorian and Edwardian Fashion』の写真を見てみましょう。これは1860年代後半。分かりやすいように以下はシャーロック・ホームズの年齢とともにご紹介します。このスカートが流行したのはホームズが10代半ばの頃。全体がAラインで裾に向かって広がっている形です。

1870年代前半

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Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey (Dover Fashion and Costumes)

1870年代前半。ホームズは20歳前後。宿敵・モリアーティー教授と出会ったころかしら。ドレスのおしりに注目。5年前に比べて、後ろの部分がふくらんでいますね。

1870年代後半

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Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey (Dover Fashion and Costumes)

1870年代後半のドレスです。ホームズがロンドンで探偵業を始めた頃。ふくらんでいたおしりが、今度はスッキリとしたシルエットになりました。

1880年代半ば

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Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey (Dover Fashion and Costumes)

かと思えば、1880年代半ばになってスカートは巨大化! ホームズは30歳代。1880年代なかばから後半にかけて、ホームズはたくさんの事件を解決しています。探偵業も軌道に乗り始めました。

1890年代

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Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey (Dover Fashion and Costumes)

そして1890年代。ホームズ40代に突入。探偵の仕事も乗りに乗っている時期です。スカートは急激にしぼんでいます。巨大化しすぎた反動でしょうか。

1900年代

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Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey (Dover Fashion and Costumes)

1900年代。もうふくらませたスカートなんて時代遅れ! ほっそりしたシルエットが流行。ヴィクトリア女王の死去によって長かったヴィクトリア時代が終わりを告げました。

ホームズは50代にさしかかるところ。1903年には探偵業を引退し、サセックス丘陵のフルワースへと引っ越しました。

アール・ヌーヴォーからアール・デコへ

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Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey (Dover Fashion and Costumes)

そして1910年にエドワード7世が亡くなり、時代はアール・ヌーヴォーからアール・デコへ。1912年の舞踏会ではもう誰もふくらんだスカートははいていません。

昔のドレスはどれも一緒と思いがちですが、ヴィクトリア朝からエドワード朝にかけてはスカートはふくらんだりしぼんだりしていたんですね。

クリノリン(Crinoline)

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ではどうやってスカートをふくらませていたのか。下半身用の下着には様々な種類があります。これはクリノリン(Crinoline)。スカートをドーム状に広げるためのもので、鯨骨(鯨のヒゲ)、鋼(はがね)などを輪の形にして布にぬいつけています。

セクシーすぎる?命がけ?

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現代からすると優雅ですが、1863年にヴィクトリア女王はクリノリンを「はしたなく、忌まわしい」ものとして勅書を発表しています。それはクリノリンが歩行中に跳ね上がり足首が見えて卑猥だったことと、クリノリンに暖炉の火がついて火だるまになる女性が後を絶たなかったため。こんな風刺画も描かれています。

バッスル(Bustle)

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これはバッスル(Bustle)。おしりの部分をふくらませる下着です。つきだしたおしりは女性の成熟度をアピール。木綿のクッションを詰め込んだものや、鯨骨でふくらませるものなど様々なものが発売されました。

ペチコート(Petticoat)

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次はペチコート(Petticoat)。19世紀初期以前は女性のスカートを指しました。バッスルと混同されることも多いのですが、スカートの下に着用して足さばきをよくする機能があります。レースやフリルが縫い付けられていることも多く、歩くときにちらっと見えるのもセクシー。

パニエ(Panier)

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Photo credit: Gemma.E.Taylor via Visualhunt.com / CC BY-NC-ND

これはパニエ(Panier)。フランス語です。様々な長さのものが発売されていますね。スカートをAラインにふんわりふくらませることができます。現在はウェディングドレスやゴスロリファッションのスカートの下によく着用されます。スカートの上に出したり、パニエのみではく方法もあります。

昔も変わらない女心

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これは私のロングスカートです。年代的には1880年代ごろのスタイルです。100年以上前の女性が流行を追いながら、いかにスカートをふくらませるかに一生懸命だったかを知ると、親近感がわいてきませんか? なんともいじましい女心。現代の女性と変わりませんね。【蒸気夫人(マダムスチーム)】

当記事に使用した画像は一部著作権保護期間を満了したパブリックドメイン写真を使用しています。

関連商品・参考文献

Victorian and Edwardian Fashion』は1845年から1905年までのヴィクトリア朝、エドワード朝の人々の写真が200枚以上掲載されています。全ページモノクロですが(当時の写真が白黒だからですね)、非常に見応えのある写真集です。男性、女性両方の写真が載っていますが、やや女性が多いかも。

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