もし現代の科学技術が19世紀~20世紀初頭に発見されていたら? 英国ヴィクトリア朝、明治末期から大正にかけての時代、当時の文化・芸術に今日の最先端の科学が融合したらどのような形になるのか? そんな「懐かしい未来と過去の形」がスチームパンクです。
世界に広がるスチームパンクムーブメント
懐古的で最先端。冒険心を掻き立てる浪漫。数年前まで一般にはほとんど知られていなかったスチームパンクは、もはや一部のマニアだけの特殊な趣味ではありません。
文学の一ジャンルから、コミック、アニメ、映画、アート、ファッション、インテリアの世界へと広がり、人々のライフスタイルにまで影響を与えるようになりました。今や各国で関連のイベントが行われ、人種を問わず世界中にスチームパンクファンを増やし続けています。
スチームパンクとは?
スチームパンクという言葉は、1987年にSF作家のK・W・ジーターにより「19世紀のテクノロジーと歴史改変」がテーマの作品を表す用語として誕生しました。スチームパンクは「サイバーパンク(電脳小説)」のもじりです。
サイバーパンクの世界は、高度に発達したネットワーク社会、電子的なデジタルガジェットに満ちた世界。一方スチームパンクは、蒸気機関や歯車が溢れる世界です。工場制機械工業の発達、産業革命から世界大戦の勃発する時代までの風俗・文化がベースになっています。
スチームパンク的作品
1990年スチームパンクブームの先駆けとなったウィリアム・ギブスンの『ディファレンス・エンジン』が人気を博すと、19世紀のジュール・ヴェルヌの『海底二万マイル』、H・G・ウェルズ『タイムマシン』など古典SFの魅力も再発見されました。
良く知られる日本のスチームパンク作品としては『天空の城ラピュタ(宮崎駿)』、『スチームボーイ(大友克洋)』『サクラ大戦』『ふしぎの海のナディア』などのアニメ、ゲームがあります。
定義が難しいスチームパンク
しかし現在において「スチームパンクとはなにか」を一言で表すのは難しくなってきました。一つには世界的な流行であることが理由です。
本場イギリスのヴィクトリアンスチームパンク、アメリカのウェスタンスチームパンク、中東スチームパンク、魔都上海スチームパンク、明治から大正にかけての日本のスチームパンク。世界各国独自のスチームパンク世界があり、狭い定義付けが困難になってきたのです。
もう一つにはアーティストから一般のファンまでプロ・アマ問わず、スチームパンクをテーマにした様々な作品が作られるようになったことです。
結果、ボイラーパンク、ディーゼルパンク、クロックパンク、ネオヴィクトリアン、ガスライトロマンス──たくさんのサブジャンルも生まれました。
「これはスチームパンクか否か?」議論は愛好家の格好のテーマになっています。大勢の人々が参加しているのですから、当然多種多様な解釈が生まれるのは当然のことでしょう。
私が考える「スチームパンク」
個人的にはスチームパンクは19世紀の風物を示す「スチーム」よりも、「パンク(精神)」の方がずっと重要だと考えています。つまり社会体制に流されたりモノを消費するだけでなく、自分の力でモノを生み出していく反骨精神、DIY精神です。
過去に学び、現在を見つめ、未来に思いを馳せる──スチームパンクは個人の「学習・考察・想像」から生み出されます。スチームパンクには人間の創造力を刺激する力があるのです。
単に真鍮や歯車があれば良い、茶色っぽい服を着ていれば良い、というのではあまりにもったいない。スチームよりもパンクの比重が高くなければ、単に一過性の流行になってしまうでしょう。
スチームパンクに必要不可欠な「if」
独自の作品を生み出すためのヒントは「if(もしも)」。もし明治時代の文化が現在も保たれていたら、もしヴィクトリア時代の科学が100年早かったら……。どんな奇想天外なアイデアでも構いません。if(もしも)という自分への問いかけが過去、現在、未来を結びつけ、新たなパラレルワールドを作り出すのです。
なぜスチームパンクに人は惹かれるのか
かつてフィクションであったサイバーパンクの世界に近づきつつある現代、懐古主義的なスチームパンクへの憧れが高まりつつあります。インターネット、携帯電話……デジタルガジェットに囲まれて息が詰まりそうな毎日の中で、真鍮、木材、歯車による機械は大変愛らしく、心癒されるものに感じます。
スチームパンクの未来
海外ではたくさんのスチームパンクアーティストが活躍しています。このブログでは写真、動画などと共にスチームパンク的グッズの制作過程をレポートしたり、スチームパンクについて楽しめる作品をご紹介したり、日々考えたことなど書きつづっていくつもりです。
今後、スチームパンクがどうなっていくのかはあなた次第。未来のスチームパンクを創るのはあなたです。空想の力を信じましょう! さあ、ありえなかったもう一つの未来、真鍮と歯車が作る「懐かしい未来」の旅・スチームパンクワールドへ出発しましょう!
【蒸気夫人(マダムスチーム)】