なぜ犬にしつけが必要なのでしょうか? ペットブームの問題もふまえて、犬の飼い主としてできることは何なのか、犬とより良い関係を築くにはどうしたらよいかについてのコラムです。
早朝の散歩風景
愛犬と散歩にでかけると、たくさんの犬たちとその飼い主さんたちに会います。一言二言挨拶など交わすので、ご近所さんとコミュニケーションをとれる貴重な場でもあります。どの犬もとても良くしつけてあって、一緒に並んで歩く姿はとても微笑ましく感じます。犬を飼うのは素敵なことだなあと実感する瞬間です。
犬のしつけが必要な理由3つ
犬のしつけは飼い主の義務です。犬のしつけが必要な理由は3つあります。
理由その【1】他者のため
第一の理由「他者のため」。犬は危険な動物です。たとえしつけがされていても、されていなくても、「犬自体が怖い」と思っている方はたくさんいます。私の旦那様も子どもの頃から犬が嫌いでした。そういう人は、たとえ小さな子犬でも近寄ってきたら怖いのです。
散歩にリードは必要不可欠
公道を散歩する以上他人を怖がらせないように、吠えさせない、人に飛びかからせないというのは最低限の義務です。散歩の際に飼い主の横にピタリとくっついて一緒に歩くコマンドをheel(ヒール)と言いますが、これもクリッカーで簡単にしつけることができます。しかしたとえヒールができても、道を歩くときにはリード(引き綱)をつけるのはマナーです。
ノーリードの人は他人を怖がらせている
これは他人に対して「飼い主の私がちゃんとリードを持っていますから大丈夫です。いざとなれば犬を止められますからみなさん安心してください」と見せるためです。
犬をノーリードで散歩させている人、犬がグイグイ引っ張るのをリードでようやく引き止めているような散歩の仕方しかできない人は、通行人を怖がらせていると自覚しなくてはいけません。
意外に強い犬の噛む力
それに犬の咬合力も考えねばなりません。犬の噛む力(咬合力)は意外に強く、小型犬でも100kg前後、ジャーマン・シェパードは200kg近くなります。
生物博士のブレディ・バー氏が動物の咬合力を調査したデータによると、大型犬の咬合力はオオカミやタスマニアデビルと変わりません。200kgの強さで尖った犬歯が肉にズブリと突き刺さるのを想像してみてください。それがあなただったら? あなたの大切な家族だったら? 小型犬だって本気を出せば子どもの指くらい噛みちぎれます。
犬は危険な動物?
地域によっては条例である種の大型犬(例えば秋田犬、土佐犬、ドーベルマン、ジャーマン・シェパードなど)を「特定犬」として危険性のある動物としてオリの中で飼うように指導しています。
大型犬がオリから逃げ出して、子どもを噛み殺した──という痛ましいニュースを耳にしたことがあるのではないでしょうか。特定犬でもちゃんとしつけをしていればオリに入れて飼う必要はないと個人的には思いますが、しつけができない飼い主も多いためかわいそうですが法律化もやむを得ないのかもしれません。
人を噛まないこと、人に吠えないことを教える
全くしつけのできていない犬を放し飼いにするなど、無免許&交通ルール無視でクルマを走らせるぐらい危険です。「お手」とか「おすわり」の前に、まず「人を噛まないこと」「人に吠えないこと」を徹底的に教え込むべきではないでしょうか。
1日10分程度のトレーニング
犬のトレーニングは1日5〜10分程度です。1〜3ヶ月もやれば数十種類のコマンドを教え込めます。そんな時間さえ忙しくて無理という人は、犬を飼わない方が良いと思います。
なぜこんなに強い調子で書くのかというと、小学生の頃に犬に噛まれたことがあるからです。右手の甲と手のひらにぽっかり空いた穴を縫ったキズが今も残っています。それでも私は犬が大好きです。犬は全く悪くありません。
犬の責任は100%飼い主にある
ある読者さんより「子育ても同じですね」というコメントをいただいたのですが、人間の場合はちょっと別かもしれませんね。人は親の教育だけでなく、教師や友達、同僚など社会の中で教えられますし、自らも努力によって学ぶことができるからです。
でも犬の場合は、犬仲間に「人を噛んだらだめだよ」と教えてもらえるわけでも、本を読んで自分で学ぶわけでもありません。責任は100%飼い主にあります。
理由その【2】犬のため
第二の理由は「犬のため」です。先ほども人を噛み殺した犬のニュースについて書きましたが、犬が人を噛んだ場合、保健所や警察などに届け出る必要があります。厳重注意と損害賠償で済む場合もありますが、被害者に重度の障害が残ったり亡くなったりした時には殺処分になることが多いです。責任をとって死ぬのは犬なのです。
年間10万頭が殺処分
『犬と猫と人間と』というドキュメンタリー映画では、日本国内で殺処分される犬猫の数が、2006年は35万頭、2007年は31万頭と伝えています。そのうち犬の数は約10万頭です。犬の殺処分は年々減ってきているというものの、それでも10万という数字に愕然とするのではないでしょうか。
保健所に連れて行くのは犬を殺してもらうこと
日本において飼育されている犬の数は約1,310万頭。中には安易にペットショップで犬を購入してしまった人もいることでしょう。
もし全くしつけをしないと、トイレを部屋のあちこちでする、モノを破壊する、人に吠える、噛む──という困った犬になってしまうかもしれません。そんな場合保健所に連れて行く──と言えば聞こえがいいですが、「犬を殺してもらう」人もいるのだと思います。
友だちを殺処分する人はいない
でももしその犬が、飼い主の言う事を素直にきいて、生活に楽しみを与えてくれるとしたらどうでしょう。犬はあなたの人生を豊かにしてくれる友だちなのです。大事な友だちを殺処分してもらう人などいないでしょう。しつけをちゃんとすることは、犬の幸せのために絶対に必要なことです。
理由その【3】飼い主のため
第三の理由は「飼い主のため」です。飼い主にとって犬を飼うメリットはたくさんあります。上にも書きましたが、飼い主の世界を広げてくれること、毎日の散歩で飼い主を健康にしてくれること──などは想像の範囲内でしょう。ここでは犬に様々なコマンドを教え込むことの利点について書きます。それは「飼い主を助けてくれる」ことです。
介助犬の初歩のコマンドなら教え込める
私の愛犬は30種類以上のコマンドを理解しますが、さらに教え込めば介助犬並にするのも夢ではありません。例えばあなたが急病になったり、事故で動けない状態になったとき、愛犬が命を救ってくれることになるかもしれません。
犬はあなたの命を救うかもしれない
また万が一地震で瓦礫に埋まったときや、発作が起きて声が出せない時など、「吠えろ」というコマンドを教えておけば、助けを呼んできてくれるでしょう。私の愛犬シュガーは普段は全く吠えません。でも「Speak!」と私が言ったり、声を出せなくても手のひらを閉じたり開いたりする動作をすれば大きな声で吠えることができます。
あなたの犬を力強い相棒に
扉を開ける、閉じる、スイッチをつける、消す、冷蔵庫の開け閉めをさせる、何かを持ってこさせる、落としたものを拾わせる──などのコマンドは比較的簡単にクリッカーで教え込むことができます。
私は喘息もちなのですが、私のようになんらかの病気や障害がある方は、犬を友だちとしてだけではなく、力強い相棒として育てることも検討してみてはいかがでしょうか。
犬の寿命まで一緒に楽しく過ごせる
犬は犬種にもよりますが、10年から15年ほど生きます。そのほんの一時期、1日10分、数ヶ月だけ一緒にトレーニングを続ければ、15年の長い時間を豊かにしてくれるのです。犬のしつけにはクリッカートレーニングをおすすめしますよ。【蒸気夫人(マダムスチーム)】
おまけ:シュガーの失敗
シュガーをべた褒めに書いたのですが、天才犬と勘違いされるといけないのでここでバランスを取っておきます。
留守中にテーブルにうっかり置いておいた集金のための4千円を、シュガーがバラバラにしてしまったことがあります。その後この4千円ジグソーパズルを組み立てるのに1時間もかかりました。翌日銀行に行って「犬に食べられました」というと、ちゃんと交換してくれましたが、すごく恥ずかしかったです。
もちろん悪いのはシュガーでなく、お金をテーブルに置いておいた私なんですけどね。アメリカの子どもの宿題忘れた典型的な言い訳に「My dog ate my homework.(犬が宿題食べちゃったんで)」というのがあります。あながちありえない話ではないと実感しました。
他にも私の大切な手羽先の骨格標本をバリバリ噛み砕いたり、いろんなことやらかしてますが、そういうのも含めて犬は毎日飽きないですね。
追記:2010/12/03
スイスではペットを飼うためには資格試験をパスしなければならない(2008年04月)そうです。ペット税導入も良いアイデアですが、日本でも飼い主試験を導入してみると良いのではないでしょうか。考えなしにペットショップで犬を買う人はいなくなるでしょう。
追記:2015年01月10日
我が家に二頭目のウィペットがやってきました。ソルト(オス)です。さらに賑やかになりましたよ。