ページを繰る手が止まらない『ヴィクトリアン インベンション』。歴史を変えた大発明、奇想天外な珍発明をクラシカルなイラストで紹介している書籍です。スチームパンカー必見!
『ヴィクトリアン インベンション』とは?
本書には1865年から1900年のスチームパンクまっただ中の時代に、『サイエンティフィックアメリカン誌』、フランス誌『ラ・ナチュール』、オランダ誌『デ・ナツール』、英国紙『ネイチャー』など、当時一流の科学雑誌に掲載された記事で構成されています。出版は1971年、著者はレオナルド・デ・フリーズ(Leonard de Vries)。今から40年も前の書籍です。
オーバーテクノロジーで過剰装飾なメカ
すべてのページに掲載されている当時のイラストレーションが絶品! 昔のメカのオーバーテクノロジー、過剰装飾を存分に堪能できます。「汽動馬(1876)」はカリフォルニアのマチューソン氏による発明品。燃料にガスを用いた5馬力の蒸気エンジン。でもわざわざ馬の形にすることはないのでは? 車体の飾りも現代なら不必要と削られてしまうでしょうね。
救命胴衣着用の給水人形?
「救命胴衣着用の給水人形(1880)」はアメリカ人デルホマー氏の発明。船の乗客に救命胴衣の着用法を教えようという着想で作られました。でもなぜ給水器と組み合わせたのか謎です。現代の我々の斜め上を行く発明品ですね。
スチームパンクパラレルワールド
この本の面白さは掲載された発明品のカオスっぷりです。
【1】19世紀後半に実現した発明品
【2】当時は実現しなかったが、後に実用化された発明品
【3】出版当時(1971)にはなかったが、後に実用化された発明品
【4】現在にはないが、未来には実現可能かもしれない発明
【5】物理、科学法則を無視した実現不可能な発明品
がごっちゃに掲載されている点です。まるでウソとホントが入り混じったパラレルワールドを覗き見ているようで、ワクワクしっぱなしです。
【1】19世紀後半に実現した発明品
こちらは実際に実用化された発明品。ご存知エジソンの「蓄音機(1877)」。随分進化した形で現代も使われていますね。他にもグラハム・ベルの「電話機(1876)」など。これらのページは発明史の基本をおさえておくのに役立ちます。
【2】当時は実現しなかったが、後に実用化された発明品
「寝室用自動送風機(1872)」。ベッドの上に時計じかけの送風うちわがついていて、涼風を送り蚊を追い払うというもの。現代ではエアコンとして一般に普及していますよね。現代のエアコンはおやすみモード、除湿・加湿モード、自動掃除モードなんかもあって、至れり尽くせりの機械になりました。
【3】出版当時(1971)にはなかったが、後に実用化された発明品
「人工宝石をつけた踊り子(1884)」。色とりどりのガラスやレンズを宝石そっくりに作り、内部に電球を埋め込んで衣装に縫いつけた発明品。パリのトルーベ氏の発明です。暗闇でピカピカ光るダンサーは注目の的! でもこれは電球によって生ずる熱が問題になったのではないかと思われます。
Team iLuminateのLEDダンス
Team iLuminateというダンサー集団のパフォーマンスを思い出しました。コンピュータ制御による電飾システムが組み込まれた衣装を着て暗闇で踊るダンスです。彼らは『America’s Got Talent(アメリカズ・ゴット・タレント)』というテレビ番組に出演して、Youtubeで一躍有名になりました。光るダンス衣装はLEDとコンピュータにより実現しました。
失敗に終わったコウモリ型グライダー
ベルギー人デ・グルーフ氏の「コウモリ型グライダー(1874)」。全長12.2メートルの主翼と6メートルの尾翼を持った、羽ばたき型飛行機です。デ・グルーフ氏は何度かの飛行実験を経た1874年07月09日に、気球から離脱後翼が空中分解して墜落、絶命してしまいました。
Jarno Smeets氏の羽ばたき飛行機
でもこちらの動画を御覧ください。これはオランダのエンジニアJarno Smeets氏が率いるプロジェクト「Human Birdwings」の映像です。羽ばたきながら飛び立ち、100メートルの飛行に成功しました。これはWiiリモコンに内蔵されている加速度センサーで操縦者の手の動きを増幅させ、スマートフォンでコントロールして羽ばたく仕組み。
【5】物理、科学法則を無視した実現不可能な発明品
私のようなド素人から見ても実現は無理そうな飛行機「軽便空中歩行器(1888)」。小学生による「ボクの考えた空飛ぶ機械」そのものです。さすがに未来の技術でもこれは難しいのではないかしら。でもタケコプターみたいで夢がありますよね。
八方破れ型飛行機
アメリカ人エイヤーズ博士による「八方破れ型飛行機」。機体中段のシリンダーとフレームのパイプ中に200気圧の圧縮空気が数時間の飛行に備えて詰められており、これが主要な動力源となる──そうです。これも実現不可能かなあ。この論文を載せた真面目科学雑誌『サイエンティフィックアメリカン誌』はどういうつもりだったんでしょうか。
100年前の人々が夢見た未来
本書には全ページにイラストが満載されていますので、パラパラと眺めているだけでも好奇心が刺激され、「これは現代でいうと●●機だな」とか「近い将来には実現するかも」と想像力が膨らみます。スチームパンカーのみなさんには、グッズやメカ制作の大きなヒントとなるはずです。100年前の人々が夢見た未来をぜひどうぞ。【蒸気夫人(マダムスチーム)】
追記(2012/04/20)
読者のおかもとさんより、ご指摘をいただきました。
「ヴィクトリアン インベンション」の参考書籍として、『図説 発明狂の時代』と『ヴィクトリアン インベンション―19世紀の発明家たち』の2冊をあげられていて、どちらも絶版と書かれていますが、2002年に発行された以下の本は絶版ではないようです。
ありがとうございます! 『図説 創造の魔術師たち―19世紀発明家列伝』を参考書籍に追記しておきました。