ジャパニーズスチームパンクスタイルに合うコルセットベストを作りました。真っ白なちりめん地は桜吹雪模様。バスク部分にアジアンノットのボタンをあしらいました。 シャツの豆知識も。
ダンディの輝きは登る朝陽の輝きではなく、沈みゆく夕陽の輝きである
礼装用の白い縮緬ウエストコート
腰から襟足にかけて背骨に沿って編み上げられたグレーリボンと、純白の縮緬(ちりめん)が光るコルセットベスト(ウエストコート)です。夜の正装ディナーコート(燕尾服)に合わせるウエストコートは白のみ。編み上げは隠れてしまう部分ですが、スチームパンキッシュなコルセット型にしました。
なぜ礼装にウエストコートが必要なの?
問:礼装にウエストコート(ベスト)はなぜ必要なのでしょうか?
答:シャツが下着だったという歴史があるからです。
男性のワイシャツはお尻の部分が丸く、前の部分よりも長くなっていますね。これは昔、後ろの裾をおしめのように前にもってきて、ボタンで合わせてパンツ代わりにしていた名残りです。
本来はシャツの下には何も下着をつけない
だから博物館などで当時のシャツを観察すると、股間部分が茶色くなっているものが多いんですよ(汚いお話ですみません)。伝統的にスーツを着こなす人はシャツを下着であるとみなして、ワイシャツの下に何も着ません。人前でシャツ一枚になるのは恥ずかしい事なので、シャツを隠すウエストコート(ベスト)を着用するのですね。

「シャツは下着」──でもマナーは変わる
ただしマナーは時代によって変わります。現代ではワイシャツの下にパンツを履かない、肌着を着ない──というのは正しいことですがやりすぎかもしれませんね。
私は「マナーは他人を不愉快にさせない気遣い」であると考えています。胸毛が透けて見える、不潔であるなど、他の人を不愉快にさせるのでは本末転倒。肌着は着て良いと考えています。
【1】型紙作り
最初は型紙作りです。手持ちのベストを参考にしながらデザインを考え、型紙に起こします。洋裁は型紙作りが一番難しいですね。 でも一番面白いところでもあります。 数学で言うトポロジー的な面白さがあるからです。
【2】試作品を作る
テスト用に安い布を使って試作品を作ることにしました。裏地はつけずペラペラのままですが、試着するには十分です。
【3】試着後型紙を手直し
絶対失敗できない高価な布を使う時や、自分の体型にピッタリ合わせなくてはならない時は、安価な布で試作品を作ると良いと思います。実際ホールドを組んだり動いてみると、補正の必要が出てきました。さらに型紙を改良します。
【4】縮緬の布の地直し
本物の礼装のウエストコートの素材はシルクが多く使われます。今回使う布はジャパニーズスチームパンクスタイルなので縮緬(ちりめん)の桜文様にしました。シボが細かくて光沢のあるタイプです。ちりめんは地直し、陰干し&アイロンを済ませておきます。
【5】接着芯づけと裁断
このちりめんは布が薄いので裁断よりも先に布に接着芯をつけておきます。アイロンの熱で縮むことを考えて大きめに接着芯を切っておくと良いでしょう。よく熱を冷ましてから型紙を置いて裁断します。
【6】 ポケットをつける
一番最初に縫うところはポケットです。これは箱ポケットと言います。 ウエストコートにはポケットが必要不可欠です。ポケットのない礼装用ベストなど考えられません。でもコルセットでポケットがあるものはまず売ってないんですよね。でも売ってなければ作れば良いのです。
【7】ポケットと懐中時計
ポケットは懐中時計を入れるために必要です。 腕時計は戦争で発達した歴史がある実用本位のもの。儀式やパーティーなど様式美を尊ぶ礼装用には似合いません。 ダブルカフスやシングルカフスは手首きっちりでとめるので、そもそも腕時計をつけることができません。

フォーマルな懐中時計はシルバーが望ましいとされます。礼装用の色はモノトーンを基本とするからです。なお、懐中時計の鎖はアルバートチェーンと呼ばれます。こちらの記事に詳しく書きましたのでご参考まで。
【8】ボーンを入手
もう着なくなったコルセットからボーンを取りました。10ドル以下で買ったコルセット(『スチームパンク東方研究所』第3巻のグラビアページで私が着てたもの)です。今までありがとう、コルセット。ボーンは通販でも手に入るようです。手作り派の方はネット通販などを利用してみてくださいね。
【9】パーツをカット
礼装用のベストはボタンが3つと決まっているので、長過ぎるパーツを切断してヤスリがけします。 切断面を白く着色して、レジンでコーティングしました。
【10】ミシンで各部所を縫う
着々と縫い上げていきます。コルセットのデザインや作り方は、bambiさんの『かわいいコルセットstyle』を大いに参考にさせていただきました。国内のコルセットに関する洋裁本としては唯一のもので、丁寧に手順を解説されてます。
【11】チャイナボタンをつける
ウエストコートの裾と脇、肩の処理終了しました。コルセットのバスクの金属部分はチャイナボタンで隠します。チャイナボタンでアジアンな雰囲気になりました。
【12】ハトメ打ち
ハトメ打ちをします。 失敗できないのでハトメ打ちはいつも緊張します。
【13】リボンで編み込む
サテンリボンを通します。 白いリボンだと編み込みの美しさが映えないのでグレーにしました。
【14】完成!
燕尾服用のコルセットウエストコート完成です! 一面の桜吹雪のちりめん地に、アジアンノットのボタン。ウィングカラーの礼装用シャツと合わせて着てみました。

ポケットにはシルバーの懐中時計を
エストコートのポケットに懐中時計入れて準備万端。本当はもっとたくさんボーンを入れたいのですが、ポケットを作るという制約上どうしてもギリギリの本数になってしまいました。体型補正としてのコルセットというより、コルセットモチーフのベストと言ったほうが良いかもしれませんね。【蒸気夫人(マダムスチーム)】