スチームパンカーはヴンダーカンマー・驚異の部屋もお好きなのではないでしょうか。色とりどりの貝殻を眺めているとワクワクします。めくるめく貝の標本の世界をどうぞ御覧ください。
あちこちで集めた貝コレクション
私は「日本珍スポット100景」というブログを書いていて、日本全国あちこち旅行しています。どういうわけか貝というものはコレクター魂を熱くさせる要素があるらしく、貝に関する珍スポットが結構多いのです。
旅のおみやげで買ったもの、海で拾ったもの、オークションで手に入れたもの、もらったもの──などたくさん貝が溜まってきたので標本箱を作ってみることにしました。
整然と並んだ貝の標本箱
コレクションボックス(厚みのある額縁)の底板に黒いフエルトを貼り、ラベルを作り、一つ一つ接着して行きます。私はモノが整然と並んでいるのが大好きで、壁一面にラベルを貼った蝶の標本や鉱物の標本を飾っています。貝もきちんと並んでいるのを見ると心が満たされます。
生物につけられている様々な名前の種類
今回は皆様を素晴らしき和名の世界にご招待しようと思います。
生物には様々な名前がついています。ラテン語やギリシヤ語による世界共通の名称「学名」、日本での共通の名前「和名(標準和名)」、そして一般に使われている「俗名」、特定の地域で呼ばれている「地方名(方言名)」、販売・購入に関する「商品名」などです。
日本独自の和名
貝は世界で8万種ほど存在していますが、日本近海でとれる貝や一部の外国産の貝には和名が付けられています。貝の和名は自然、貝以外の生物、生活用品、古語、仏具などさまざまなものに由来しています。なるほどと思う和名も多いんですよ。
【1】ヒバリガイ(雲雀貝)
これはヒバリガイ(雲雀貝)です。和名の由来ははっきりしていませんが、鳥のヒバリは赤褐色をしているから、なんとなく外見が似てるような気が。ヒバリは、晴れた日に鳴く「日晴(ひはる)」が語源だそうですよ(語源由来辞典)。
【2】クジャクガイ(孔雀貝)
これはクジャクガイ(孔雀貝)。うっかり裏表逆に貼りつけてしまいましたが、この貝の裏側は青色に光っていています。由来はクジャクの羽に似ているからです。
【3】ホトトギスガイ(杜鵑貝)
つぎはホトトギスガイ(杜鵑貝)。羽の縞模様と貝の縞模様が似ていることから。「ガイ(貝)」をとって、ホトトギスと呼ばれることも多いです。百人一首の後徳大寺左大臣の歌「ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる」を思い出します。ホトトギスは夏の訪れを象徴する鳥。テッペンカケタカ──と鳴きます。
【4】ウノアシガイ(鵜足貝)
ウノアシガイ(鵜の足)です。ギザギザとした形で笠のようです。色も黒っぽい青色で、形も水鳥である鵜の足に似てますよね。昔の人の観察眼はするどいですね。干潟にいるので結構よく見る貝です。
【5】シラスナガイ(白砂貝)
今度は海に関する和名。シラスナガイ(白砂貝)です。白い砂浜を連想させるところからつけられたのでしょうか。白くて美しいです。でも実は砂浜にはいなくて水深10〜400メートルのの砂泥底に生息しています。
【6】モシオガイ(藻塩貝)
モシオガイ(藻塩貝)です。「来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ」 百人一首の権中納言定家の歌ですね。藻塩は海藻に海水をかけて干して焼いて作る塩です。海藻を焼くことと焦がれる恋心をかけているんですよね。
【7】アコヤガイ(阿古屋貝)
アコヤガイ(阿古屋貝)は真珠の養殖に使われる貝。阿古屋は現在の愛知県阿久比町の古い地名で、阿久比町で採れた真珠の名前から、真珠のことを阿古屋と呼ぶようになりました。内側の光沢が虹色にピカピカ輝いていますよ。
【8】イシダタミガイ(石畳貝)
今度は建築に関する貝。イシダタミガイ(石畳貝)です。これも納得の命名。整然と並んだ石畳そっくりですよね。よくヤドカリが中に住んでたりします。これもよく海で見かける貝です。
【9】イタヤガイ(板屋貝)
イタヤガイ(板屋貝)です。板葺(いたぶき)屋根に見えるでしょう? ホタテガイ(帆立貝)によく似ていて、味はホタテほどではないものの、お寿司のネタやバターソテーとして食べられます。人魚姫がブラジャーにつけてそうな貝ですよね。
【10】チリボタンガイ(散り牡丹貝)
植物に由来するものもあります。これはチリボタンガイ(散り牡丹貝)。残念ながら色がとんでしまっていますがもう少し赤い色で、ところどころ突起があるのが特徴。もっと赤いとハラハラと散りゆく牡丹に似てるんだけどな。
【11】ナデシコガイ(撫子貝)
これはナデシコガイ(撫子貝)。これまた残念なことにこの標本のものは色が淡いです。貝の標本って色が抜けてしまったりするんですよね。ナデシコガイは赤やピンク、紫、黄色、オレンジなどいろんな色があって、淡い桃色のものは撫子の花を連想させるんですよ。カラフルできれいだから海のおみやげ屋さんで売ってたりします。
【12】マツムシガイ(松虫貝)
虫に由来した貝もありますよ。これはマツムシガイ(松虫貝)。斑点がきれいですね。松虫を上から見た形に似ているからだそうですが、うーんそう見えるような見えないような……。昔の人は想像力豊かですね。松虫の鳴き声は知ってますよね。あれ松虫が、鳴いている〜チンチロチンチロ、チンチロリン♪
【13】ムシエビガイ(蒸し海老貝)
ムシと名がついていますが、これは虫とは関係ないムシエビガイ(蒸し海老貝)。蒸した海老に例えた名前です。写真はお鍋のものしか見つからなかったので蒸しエビじゃないけど。美味しそう〜かな?
【14】キンチャクガイ(巾着貝)
キンチャクガイ(巾着貝)です。口をきゅっとしぼった巾着の形に似ているからです。写真はかご付きの巾着袋なんですが、かごがない布だけの巾着袋だとそっくりですよね。水深20~50mの所にいるのであまり海岸で拾えません。
壁に貝の標本箱を飾る
普段はこんなふうに壁に飾っています。貝の和名って面白いですね。ほかにも一見して貝の名前とは思えない、キンギョ、コオロギ、オミナエシ、ササノハ、ヤキイモ、クチベニ、ネジヌキ、ヘソクリ──なんて名前もあるんですよ。
自然に対する愛が込められた和名の貝殻
国際的に規約にのっとってつけられる学名とちがい、和名には明文化された規約がありません。そのため図鑑によってもバラバラだったり混同されることも多く議論を呼んでいます。でも自然に対するあたたかい愛が込められた和名に出会うと、ああ日本人で良かったなあと思います。【蒸気夫人(マダムスチーム)】
追記:2017年06月05日
この記事を書いた5年後。場所は変わりましたが、今も貝の標本は蒸気邸の壁に飾られています。貝って本当に美しいですね。また貝殻が溜まったら標本箱を作ろうかな。